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大阪高等裁判所 昭和39年(ラ)154号 決定

抗告人 兵庫県商工信用株式会社

右代表者代表取締役 佐々木俊男

主文

原決定を取り消す。

理由

一、本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。

二、当裁判所の判断。

職権をもつて調査するに、競売法二三条によれば、不動産競売申立人は、競落期日までは最高価競売申込人の同意のある場合に限り申立ての取下をすることができるが、競落許可決定のあつたあとは、申立人が任意に取下をすることを許さず、ただ、利害関係人全員の同意のある場合のみ取下をすることができると解するのが相当である(最高裁判所昭和二八年六月二五日判決、民集七巻六号七五三頁参照)。しかし、このように解したからといつて、わが民訴法あるいは競売法上、右同意の追完を許さないというなんらのいわれもない訳であるから申立人は、競売裁判所に取下書を提出した当時けん欠していた右同意をあとで追完することによつて取下の効果を生ぜしめ得るものであることはもとよりいうまでもないところである。したがつて、取下書の提出がなされたけれども右同意がけん欠している場合においては、その追完のなされるまで取下の効果を生ずるに由ない訳であるから、競売裁判所としては、引続き競売手続を進めるべきであり、取下書もしくは取下を却下することなくそのままにしても、手続続行上なんの妨げもない。そうだとすれば、この場合、競売裁判所において右同意がけん欠しているとの理由に基づき取下自体不適法であるとして却下の決定をすることは、申立人からけん欠せる同意を追完する機会を奪うものであつて、かかる決定はなんら法律上の根拠のない違法なものであるから、右決定に対しては、民訴四一一条の規定を類推適用し、当事者は抗告をすることができると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、記録によれば、原裁判所は、昭和三九年四月三〇日午前一〇時本件競落許可決定を言い渡したところ、本件競売申立人である抗告人(順位二番の抵当権者)は翌五月一日原裁判所に本件競売申立ての取下書を提出したが、これには本件競落人である山本美代次の同意があるのみで、他の利害関係人である順位一番の抵当権者佐々木俊男、同三番抵当権者神奈川電気株式会社の同意の欠けていた(佐々木は却下決定後原裁判所に同意書送付)ことが明らかである。したがつて、取下の効果はいまだ生じていない訳であるから他に続行を妨げる特段の事情のない限り、原裁判所としては競売手続を進めるべきであつて取下を却下すべきものではない。そうすると、利害関係人の同意を欠くという理由で本件競売申立の取下を却下した原決定は、上述したところからして違法であり取消しを免れないというべきである。

よつて、民訴四一四条、三八六条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長判事 平峯隆 判事 日高敏夫 古崎慶長)

〈以下省略〉

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